フルーツバスケット(オリジナル)

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 七月の末のある雨の日、僕のクラスのプール授業は中止になった。
「今日は、フルーツバスケットをする!」
 僕らのクラスでフルーツバスケットをする時は、何でもバスケットと呼ばれるルールで行われ、三回鬼になった奴が出た時点でゲームは一度終わることになっていた。
「さーて、みんな始めるぞ」
 担任の先生が言うと、じゃんけんで負けた僕(大藤誠)が中央に立った。そしてみんなは、円を組んだ椅子に座った。

「では、はじめ!!」
 先生が号令をかけるのと同時に、僕は大きな声で叫んだ。
「眼鏡をかけた女の子!!」
 すると、クラスの中にいた数人の女の子たちが立ち上がった。
(あれ、あの子って眼鏡かけてたかな?)
 席につくと、僕は鬼になった子を見た。その女の子は、僕の記憶の中では眼鏡をかけてはいなかった。僕が首をかしげていると、その女の子が叫んだ。
「白い靴下を履いている男の子!!」
 その女子が叫ぶのと同時に、僕を含めた多くの男子が動いた。僕は、どうにか席に座る事ができ、一息ついた。そして、鬼の次なる言葉を待った。
「髪の毛が長い女の子!!」
 鬼が叫ぶのと同時に、また数人の女の子が動いた。女の子という指定がある以上、今回動くのは女の子たちだけのはずである。しかしなぜか、僕の隣に座っていた男の子が突然立ち上った。だけど、彼もどうやら間違えた事に気がついたらしく、顔が赤くなっていった。
 僕が『座れよ』と声をかけようとしたまさにその時、その男の子に変化が襲った。坊ちゃん刈りに切りそろえられていた彼の髪の毛がバサっと降るように伸びると身長が少し縮み、伸びた髪の毛に可愛らしいリボンがつけられた。
 一瞬のうちにその少年は、男物の服を着た女の子になっていた。
僕は、唖然としながら中央に向かうその女の子を見ていた。そして、その元男の子だった女の子は、僕のそんな気持ちなどおかまいなしに、大きな声で叫んだ。
「フルーツバスケット!!」
 すると、みんなは一斉に立ち上がって移動したが、呆けていた僕は、出遅れてしまった。そして、再び僕は鬼になってしまった。回りの様子を見ている限り、どうやらみんなは先ほどの異常現象に気がついていないようだった。
 僕はひとまずその事を頭の隅に追いやると、大きな声で叫んだ。
「ジーパンを履いていない女の子!!」
 僕が叫んだ瞬間、女の子が数人立ち上がって移動した。そしてその中には何故か、先ほどの元少年もまた間違えたのか含まれていた。
 僕は席に着くと、中央に立っている女の子を見た。その子を見た瞬間、僕は思わず自分の頬っぺたをつまんでしまった。中央には、二度も間違えて立ってしまった元少年が、可愛らしいワンピースを着て立っていた
――彼の姿は、何処からどう見ても、女の子以外の何者にも見えなかった。
 その愛らしい姿からは、元のやんちゃ坊主の面影を見出す事は、ほとんど不可能だと思われた。
「身長が150ない女の子!!」
 鈴のような綺麗な叫び声が響くと、多くの女子が立ち上がった。そして新たな鬼が決まって、落ち着きを取り戻した場を見てみると、何人かが、男装したり女装したりしていることに気がついた。さらに注意してみてみると、知らない子まで混じっていた。
(どうなってるんだ?)
 僕は、この遊び自体がビックリカメラであり、みんなで僕をからかっているのではないかと一応は思い込む事にした。その時、鬼の子が叫んだ。
「男の子で、女の子の服を着ている人!!」
 それを聞いた僕は、周りの子もこの異変に気がついているのではと一瞬思ったのだが、違うようだった。立ち上がり移動した子たちは座っている時は確かに普通の格好をしていたのである。
 しかし、立ち上がった彼らは女装していた。それも、とてつもなく少女趣味な服に身を包んで――
 この気持ち悪いとしか言いようのない光景を見た僕は、吐き気うや眩暈も覚えはじめていた。そしてあまりの気持ち悪さに、僕はボーとしてしまい、鬼の子がなんといったのか聞き取る事ができなかった。だから隣の子が――
「おいお前も、だろ! 早く動けよ!」
 と、耳打ちしてきたとき、何も考えずに立ち上がってしまった――中央に立っている見覚えの無いエプロンドレス姿の女の子に席を譲ると、僕は中央に立った。
 その瞬間、僕は強烈な眩暈に襲われた。そしてそれがおさまると、先ほどよりも目線が下がっているように感じた。
(あれ、僕ってこんなに、小さかったっけ?)
 体全体から違和感を覚え始めた僕は、首をかしげながら目線を下に移した。瞬間僕は腰を抜かしかけた。
 視線の先にあったのは、見慣れている短パンとTシャツではなかったのである。そこにあったのは、先ほど僕が席を譲った女の子が来ていたような、普通の女の子なら着るのを恥ずかしがるような、フリルのたくさんついているとても可愛らしいエプロンドレスだった。

「ストップ!!そこまで!!」
 先生が何の前触れもなく、いい気な声で叫んだ。
「お前これで鬼になったのは三回目だろ」
 先生に言われて初めて、僕もその事に気がついた。
「よし、みんな席を元に戻せ。それと、もうすぐチャイムなるから、もう休み時間にしていいぞ」
 先生はそう言うと、教室を出て行った。そして、椅子の円がなくなると同時に……
「うわ、何で俺こんな格好してるんだ?」
「キャー、変態」
「あれ、何で私男の子になってるの?」
「なんで、俺が女に……」
 と、夢から覚めたかのように大騒ぎになった。みんな今頃気がついたらしい。
「ねぇまこちゃん、早く行こうよ」
「え?」
「早く、椅子元に戻していこうよ。馬鹿な事してる子達はほっといてさ」
 僕と同じエプロンドレス姿の女の子が、僕の手を握ると走り出した。僕らのいなくなった後の教室では、無事だった子達が職員室に異常を報告しに行ったそうである。
 みんなが慌てふためいている中、僕は何故かトイレにいた。
 先ほどの女の子にトイレに連れて来られた僕は、当然のことだが鏡を見てしまった。そこには、とても可愛らしい女の子が移っていた。エプロンドレスを来た女の子が、僕と同じように鏡の中で驚いた顔をしていた。これじぁ……もう家に帰れないよう――


 僕は泣きそうになりながらも、教室に戻ると帰る準備をはじめた。ここではじめて、僕は変わっているのが自分の体だけではない事に気がついた。
 ランドセルが黒いものから赤いものにかわっていて、可愛らしきーホルダーがつけられていた。机の中に入れてあった教科書の裏やランドセルの横側に書かれている名前が、すべて、ママたちがもし僕が女の子ならこの字にすると言っていた方に……大藤真琴にかわっていた。
 恐る恐る隣の席の男の子に確認したところ、最後に鬼の子が叫んだのは「エプロンドレスを着た女の子!」であったそうである。
 ビクビクしながら家に帰った僕を待っていたのは、今までの僕の存在の消滅と、あらたな僕という存在、大藤真琴という女の子としての生活だった。
 そして翌日
 クラスの大半の子が欠席している中、僕は登校した。
「まこちゃん、おはよ〜」
 一人の少女として――
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